筋肉増強外来で使用する薬剤について
- 2024年1月6日
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筋肉増強外来で使用する薬剤について
〜さぎぬま泌尿器科・美容クリニック〜
サスタノン(Sustanon) 250とは
男性ホルモン(Androgen:アンドロゲン)として知られるテストステロン。睾丸で⽣成されたテストステロンは、加齢とともに分泌量が減少します。サスタノン(Sustanon)250は、本来テストステロンの⽋乏によって引き起こされる様々な健康上の問題 (男性の性腺機能低下症) の改善や⼥性から男性への性転換者の⽀持療法の目的で使用される薬剤です。
つまりサスタノン250を投与(テストステロン補充)することで、テストステロン欠乏症の症状が改善され、男性化が誘導されます。具体的には骨密度と除脂肪体重の増加、体脂肪量の減少、性欲や勃起機能などの性機能の改善、コレステロール・中性脂肪の減少、インスリン感受性の改善・血糖値の低下が報告されています。また性転換者へのホルモン療法だけでなく、体質的に成長や思春期に遅れがある男児への二次性徴の発達の誘導などにも使用されています。
海外では様々な治療に適用されている一般的な注射剤ですが、日本では未承認の医薬品であり不安を感じる方もいらっしゃると思います。当院でも使用しているサスタノン250の副作用を最小限に抑え、期待される効果が得られるよう、正しく安全に使用するための基準となる情報をお伝えします。
- 医薬品の名称
サスタノン250、サスタノン250mg/ml注射液
- 定性的・定量的構成
サスタノン250の成分・有効成分は次の通りです
油性溶液1mlには次のものが含まれます
・プロピオン酸テストステロン30mg
・フェニルプロピオン酸テストステロン60mg
・イソカプロン酸テストステロン60mg
・デカン酸テストステロン100mg
テストステロン自体に、それぞれ作用時間の異なる4種類のエステルが結合されています。エステルは全身循環に入るとすぐに加水分解されて天然ホルモンのテストステロンになります。
1mlあたりのテストステロン総量は176mgです。その他成分として落花生油、ベンジルアルコールが含まれています。
- 薬物動態学的特性
・吸収
サスタノン250の単回投与は、総血漿テストステロンの増加をもたらし、最大血中濃度は約 70nmol/lのC max(最高血中濃度)となり、約24~48時間でT max(最高血中濃度到達時間)に到達します。男性の血漿テストステロンレベルは、約21日で正常範囲の下限に戻ります。
女性から男性への性転換者において、サスタノン250の単回投与を2週間ごとに繰り返したところ、2ヶ月、4ヶ月、12ヶ月の時点で、テストステロンの平均値が男性の正常範囲の上限に近づくことが分かっています。
・分布
テストステロンは、インビトロ試験で血漿タンパク質および性ホルモン結合グロブリンに対して高い (97% 以上) 非特異的結合を示します。
・生体内変換
テストステロンはジヒドロテストステロンとエストラジオールに代謝され、これらは通常の経路を介してさらに代謝されます。
・排出
排泄は主に、エチオコラノロンとアンドロステロンの抱合体として尿中に排泄されます。
- 製剤形態
注射用溶液
無色のガラス製アンプル内にSustanon250 1Aが充填
透明な淡黄色の溶液
- 治療適応
・テストステロン欠乏症及び、男性性腺機能低下症に対するテストステロン補充療法
・臨床的特徴(ED、不妊症、性欲低下、疲労感、抑うつ状態、ホルモンレベルの低下による⾻量減少など)が確認された場合
・女性から男性への性転換者の支持療法
- 薬量学と投与方法及び注意点
・薬学
投与量は個々の患者の病気と程度、薬の反応に合わせて異なるため、専門の医師の判断のもとテストステロンレベルを定期的にモニタリングする必要があり、またテストステロンレベルを確実に維持するために投与量を個別に調整する必要があります。通常使用におけるサスタノン250の投薬がされている場合、最初の1年間は3ヶ月毎、その後は毎年、以下のパラメーターについてモニタリングする必要があります。
・前立腺肥大症又は無症候性前立腺癌を除外するためのPSA値、直腸内触診の前立腺評価
・赤血球増加症(多血症)を除外するための採血フォローアップ
*長期のアンドロゲン療法を受けている患者では、血液濃度指標(Hb・Ht)、肝機能検査(AST・ALT・γ-GTP)、脂質プロファイル(総コレステロール・LDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪値)などの検査パラメータも定期的にモニタリングする必要があります。
・大人(高齢者を含む)
通常3週間に1回(1ml)の注射投与が基準となります。
65歳以上の高齢者におけるサスタノン250の使用の安全性と有効性に関する臨床試験データは限られており、年齢別のテストステロン基準値については現在統一見解がありません。ただし、生理学的にテストステロンの血清レベルは加齢とともに低下することを考慮する必要があります。
・小児及び青少年
安全性と有効性は十分に確認されていません。
アンドロゲンを使用している思春期前の小児において望ましくない影響が報告されています。
早期の骨端閉鎖と早期の性的発達、勃起頻度の増加、男根の肥大を促進する可能性があるため、思春期前の小児では身長の成長と性的発達を監視する必要があります。
・女性から男性への性転換者 支援療法
2〜4週間に1ml/回の注射を基準に使用されます。
からだの性別(Sex)と本人が自覚する心の性別(Gender)が一致しない性同一性障害(GID)の治療に関しては、ホルモン療法が必要となりますが、サスタノン250による治療は、女性に男性化の兆候を誘発する可能性があります。男性化の症状には、嗄声、座瘡、多毛症、月経不順、脱毛症などが含まれます。そのため、女性から男性へ(FTM)の性転換者に対してサスタノン250を開始する際は、個人的および病歴の収集、精神医学的評価を含む専門家の評価を受ける必要があります。治療中は、個人に合わせた頻度と内容で定期検査を受けることが推奨され、以下を監視する必要があります。
・骨粗鬆症の兆候
・脂質プロフィールの変化
・乳がんの個人歴または家族歴
・子宮内膜がん及び卵巣がんの個人歴
専門家のアドバイスのもと子宮内膜がん及び卵巣がんのリスク増加の可能性を軽減するために、テストステロン治療の18~24か月後に子宮摘出術及び両側卵巣摘出術の検討を含めて継続的な監視を行う必要があります。
・投与方法
医学的知識のある医師又は看護師による投与が推奨されます。薬液を臀部・大腿部・上腕部等の筋肉の奥深く(深部筋肉注射)に的確に投与する必要があります。
- 禁忌
・妊婦、妊娠した可能性がある方、授乳中の方
サスタノン250は妊婦の女性には禁忌です。サスタノン250の妊娠中の使用に関する適切なデータはありませんが、胎児の男性化のリスクを考慮して、サスタノン250は妊娠中に使用すべきではありません。妊娠した場合は、サスタノン治療を中止する必要があります。同じく授乳中のサスタノン250の使用に関する適切なデータも無いため、サスタノン250は授乳中に使用すべきではないです。
男性の場合、アンドロゲンによる治療は精子形成を抑制することにより生殖能力障害を引き起こす可能性があります。
女性の場合、アンドロゲンによる治療により、月経周期が稀になったり、月経周期が抑制されたりすることがあります。
・前立腺癌又は乳癌の既往歴、もしくは疑われる方
・ピーナッツ又は大豆アレルギーのある方
サスタノン250には落花生油 (ピーナッツ油) が含まれているため、ピーナッツにアレルギーがある患者に摂取または塗布をしないでください。ピーナッツはナッツ類と思われがちですが、大豆と同じマメ科の植物であり、大豆アレルギーのある患者もサスタノン250を避けるべきです。
・3歳未満の小児
また、サスタノン250には1ml溶液あたり100 mgのベンジルアルコールが含まれているため、未熟児や新生児には投与しないでください。ベンジルアルコールは、乳児および3歳までの小児に毒性反応やアナフィラキシー反応を引き起こす可能性があります。
- 使用上の注意事項
・腫瘍
乳癌、腎癌、気管支癌、骨格転移のある患者では、アンドロゲン療法中に高カルシウム血症または高カルシウム尿をきたす恐れがあり、ホルモン治療に対する腫瘍の陽性反応を示している可能性があります。まず高カルシウム血症または高カルシウム尿症に対しての治療が優先され、その後カルシウム正常値へ改善後にホルモン療法を再開する必要があります。
・既存の症状
重度の心不全、肝不全、腎不全、または虚血性心疾患を患っている患者において、テストステロンによる治療は、体内の水分貯留過多や浮腫を特徴とする重篤な合併症を引き起こす可能性があります。そのため症状出現時は直ちに治療の中止が求められます。また心筋梗塞、心不全、肝不全、腎不全、高血圧、てんかん、または片頭痛のある患者は、病気の悪化もしくは再発のリスクがあるため、注意する必要があります。兆候が見られた場合には、治療を直ちに中止する必要があります。
テストステロンは血圧上昇を引き起こす可能性があるため、高血圧症の男性に投与する際は注意して使用する必要があります。
・てんかん、片頭痛、高血圧
アンドロゲンが体液やナトリウムの貯留を引き起こす可能性があります。テストステロンは⾎圧の上昇を引き起こす可能性があるため、⾼⾎圧がある場合、または⾼⾎圧の治療を受けている場合は医師に伝えてください。
・睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠時無呼吸症候群の疑いのある男性を治療する場合は注意が必要です。睡眠時無呼吸症候群とテストステロンの安全性に関する証拠は十分ではありませんが、テストステロンが睡眠時無呼吸症候群を引き起こしたり、悪化させたりする可能性があると一部報告があります。肥満や慢性肺疾患などの危険因子を持つ患者には、適切な臨床判断と注意が必要とされています。
・凝固障害
テストステロンは、血栓形成傾向もしくは静脈血栓塞栓症(VTE)の危険因子を持つ患者には注意して使用する必要があります。これらの患者でのテストステロン療法の使用は血栓性イベント(深部静脈血栓症、肺塞栓症、眼血栓症)の報告があるためです。血栓形成性患者では、抗凝固治療中であってもVTE症例が報告されているため、テストステロン治療の開始・継続については慎重に評価する必要があります。治療を継続する場合は、個々のVTEリスクを最小限に抑えるために更なる措置を講じる必要があります。喫煙や肥満もリスクを上げます。
- 他の医薬品との相互作用
・インスリン注射および糖尿病治療薬
アンドロゲンは耐糖能を改善することができ、糖尿病患者におけるインスリンや他の抗糖尿病薬の必要性を減らす可能性があります。そのため糖尿病患者に対してサスタノン250治療を行うときは開始時、治療中、終了時を含め定期的にモニタリングする必要があります。
・抗凝固療法
高用量のアンドロゲンとサスタノン250 は、クマリン系抗凝固薬・ビタミンK拮抗薬(ワルファリンK錠、ワーファリン錠)の抗凝固作用に影響を及ぼし、作用を増強させます。そのため治療中はプロトロンビン時間に注意し、必要に応じて抗凝固剤の用量を減らす必要があります。
・ACTH またはコルチコステロイド
テストステロンと ACTH またはコルチコステロイドの同時投与は浮腫形成を促進する可能性があるため、これらの活性物質は、特に心臓疾患や肝臓疾患のある患者、あるいは浮腫の素因のある患者には慎重に投与する必要があります。
・てんかん薬
てんかんの治療に使⽤されるフェノバルビタール。肝臓で作られる酵素の量を変える薬(酵素阻害剤)のため、テストステロンレベルを上昇させる可能性があります。
- 正確な認識とリスク
・スポーツ及び公式競技等での誤った使用
サスタノン250はアンチ・ドーピング検査を妨げる可能性があるため、世界アンチ・ドーピング機関 (WADA) が管轄する競技会に参加予定の患者は、この製品を使用する前にWADA規則・規定を参照しルールを遵守する必要があります。スポーツ能力を向上させるためにアンドロゲンを乱用することは、重大な健康リスクを伴うため、推奨されません。
・薬物乱用と依存
テストステロンは、通常承認された適応症で推奨されている使用量よりも高濃度な量での使用や、他のアナボリックアンドロゲンステロイドと組み合わせて乱用されてきました。テストステロンおよび他のアナボリックアンドロゲンステロイドの乱用は、心血管系、肝臓系および精神系の事象を含む重篤な副作用や場合によっては致命的な結果を引き起こす可能性があります。テストステロンの乱用は、用量の大幅な減量や使用の突然の中止により、依存症や離脱症状を引き起こす可能性があります。テストステロンや他のアナボリックアンドロゲンステロイドの乱用は深刻な健康リスクを伴うため、適切な医療機関での使用以外は推奨されていません。
・男性化
患者には、男性化の兆候が現れる可能性について知らされるべきである。特に、歌手やスピーチの職業に就いている女性は、声が低くなってしまうリスクについて知っておく必要があります。声の変化は元に戻せない場合があります。男性化の兆候が現れた場合は、個々の患者についてリスク/ベネフィット比を新たに評価する必要があります。
- 投与による影響変化、副作用、有害事象(AE)
サスタノン250はその性質上、投薬を中止してもすぐに副作用が改善するのではなく、時間経過と共に徐々に回復します。アンドロゲンに関連した副作用が確認された場合は、サスタノン250による治療を休止し、投与開始基準値まで回復した後、減量投薬量に従い投与を再開する必要があります。
・⾚⾎球増多症(多血症)
・体重増加
・かゆみ
・にきび
・肝機能検査の変化
・コレステロール値の変化(脂質代謝の変化)
・精神障害(うつ病、神経過敏、気分の変化)
・筋肉痛
・組織内の体液貯留(通常は足首又は足の腫れが特徴)
・高血圧
・性的欲求の変化
・ペニスの異常な勃起、痛みを伴う勃起時間の延長
・射精障害
・精子の形成障害
・女性化(女性化乳房)
・前立腺腫瘍マーカー(PSA値)の上昇
女性の副作用
・男性化の兆候(声の低下、体毛や顔の毛の増加)を引き起こす可能性がある
子供(思春期)と青少年の副作用
・早期の性的発達
・陰茎の拡大
・勃起頻度の増加